Project 誕生祝
数日前のことだ。
突然、同期の一人が言い出した。
「明日あいつの誕生日だから、お祝いしようぜ」
私は当然同意する。
自分の誕生日も祝ってもらったし、他人の誕生日を祝うのは楽しい。そして、何より彼女の誕生日を心から祝いたいのだ。
「じゃあ、23時半に俺の家集合で」
ー23時・・・?
私は当然、なぜそんな時間に集合なのかと尋ねる。
「俺が22時まで仕事なのと・・・どうせだったら、日が変わると同時に●●の家を電撃訪問しようぜ」
口が開いて塞がらない。夜中の訪問者なんて、(少なくとも私にとっては)怒りの対象以外の何者でもない。
だが、同時に、口元が緩んでくるのも感じる。なぜなら、私もそういう悪ふざけが大好きだからだ。
23時。
3人の男女が、一つところに集まった。
そう、3人。こんな馬鹿げたことに3人も集まろうとは。この会社は、そう長くないかもしれない。
「●●が、家に戻ったみたいだ。メールがきた」
スーツに花束を持ったー90年代のトレンディドラマを思い起こさせるー発起人の男が言った。
「よし行こう」
夜中には絶対食べないであろう大きさのホールケーキを持った男ー私ーが言った。こういったイベントでは、実用性よりもインパクトが大事だということぐらいは心得ている。
「よし行こう」
手にはプレゼント。自分の誕生日は洗濯層の掃除。自己犠牲精神溢れる女が言った。
プロジェクトメンバー3人(もはやこれはプロジェクトと言っていいだろう)は、冷たい風の吹く夜の街の中を抜け、目的地を目指した。
目的のマンションに到着したとき、火付け役の男が言った。
「部屋番号がわからない」
私たちー当然仕掛け人を除く二人ーは、男を罵倒した。そして、いくつかの口論を経て
「電話をかければいいじゃないか」
という当然の結論に達する。
まずは、言いだしっぺの男。
ー繋がらない
次に、女。
ー繋がらない
最後に、私。
ー発信音すら鳴らず留守番電話サービスへ。
これから導き出される結論。
電話の電源を、切られた・・・?
3人は、マンションの前で、ひとしきり途方にくれた後、男の家に戻った。
3人は、口汚い言葉で罵りあったり、計画の不備について嘆いたりすることはなかった。
ただ、静かに座っていた。無言というひびが、3人の間に横たわっていた。
プロジェクトをはじめた当初の、希望や喜びや楽しさや・・・・そういった何かよさげなものは、全てどこかに消え去っていた。
そのとき、女の携帯電話が鳴った。
ーごめん。お風呂に入ってたら、携帯の電源切れてた。
路行く人を押しのけ、跳ねとばし、3人は黒い風のように走った。
酒屋で酒宴の、その宴席のまっただ中を駈け抜け、酒宴の人たちを仰天させ、犬を蹴(け)とばし、小川を飛び越え、少しずつ上っていく月の、十倍も早く走った。
一団のサラリーマンと颯っとすれちがった瞬間、不吉な会話を小耳にはさんだ。
「いまごろは、あの女も、夢の中にいるよ。」
ああ、その女、その女のために私は、私たちは、いまこんなに走っているのだ。
その女を寝かせてはならない。
急げ。
おくれてはならぬ。
愛と誠の力を、いまこそ知らせてやるがよい。
風態なんかは、どうでもいい。
私たちの心は、いまや、ほとんど全裸体であった。
呼吸も出来ず、二度、三度、鼻から水が噴き出た。
見える。はるか向うに小さく、彼女のマンションが見える。
マンションは、月光を受けてきらきら光っている。
マンションの下で電話をかける。
ーつながった。
「私だ! あなたの同期の、私だ。あなたを祝う人々は、ここにいる!」と、かすれた声で精一ぱいに叫びながら、ついにマンションの上に昇り、友の家の玄関に齧(かじ)りついた。周辺住民は、どよめいた。あの不審者たちは誰かしら、と口々にわめいた。
同期の家の玄関は、開かれたのである。
私たちは眼に涙を浮べて言った。
「Happy Birthday to You. Happy Birthday to You...」
彼女は、すべてを察した様子で首肯(うなず)き、フロア一ぱいに鳴り響くほど音高く私たちの右頬を殴った。殴ってから優しく微笑(ほほえ)み、
「私を殴れ。同じくらい音高く私の頬を殴れ。私はこの三日の間、たった一度だけ、ちらと君たちを疑った。生れて、はじめて君たちを疑った。君たちが私を殴ってくれなければ、私は君たちと抱擁できない。」
私たちは腕に唸(うな)りをつけて誕生日の彼女の頬を殴った。
「ありがとう、友よ。」四人同時に言い、ひしと抱き合い、それから嬉し泣きにおいおい声を放って泣いた。
どっと近隣住民の間に、歓声が起った。
「Happy Birthday! Happy Birthday!」
私たちは、プレゼントを差し出したあと、ドアをそっと閉めようとした。彼女は、まごついた。佳き友は、気をきかせて教えてやった。
「君は、パジャマ姿じゃないか。早く着がえるがいい。私たちは、あなたのパジャマ姿を、皆に見られるのが、たまらなく口惜しいのだ。」
つい、2時間前に誕生日を迎えた彼女は、ひどく赤面した。
夜のテンションでブログを書き出したら、自分の文才の無さと根気の無さに絶望して、途中からパロディになりました。
まぁ、いいや。
きっと、大して違わないからいいよ。もう。ほんと。
※この文章はきっとフィクションです。実在の人物、団体、事件などにはいっさい関係ないんじゃないかな。
突然、同期の一人が言い出した。
「明日あいつの誕生日だから、お祝いしようぜ」
私は当然同意する。
自分の誕生日も祝ってもらったし、他人の誕生日を祝うのは楽しい。そして、何より彼女の誕生日を心から祝いたいのだ。
「じゃあ、23時半に俺の家集合で」
ー23時・・・?
私は当然、なぜそんな時間に集合なのかと尋ねる。
「俺が22時まで仕事なのと・・・どうせだったら、日が変わると同時に●●の家を電撃訪問しようぜ」
口が開いて塞がらない。夜中の訪問者なんて、(少なくとも私にとっては)怒りの対象以外の何者でもない。
だが、同時に、口元が緩んでくるのも感じる。なぜなら、私もそういう悪ふざけが大好きだからだ。
23時。
3人の男女が、一つところに集まった。
そう、3人。こんな馬鹿げたことに3人も集まろうとは。この会社は、そう長くないかもしれない。
「●●が、家に戻ったみたいだ。メールがきた」
スーツに花束を持ったー90年代のトレンディドラマを思い起こさせるー発起人の男が言った。
「よし行こう」
夜中には絶対食べないであろう大きさのホールケーキを持った男ー私ーが言った。こういったイベントでは、実用性よりもインパクトが大事だということぐらいは心得ている。
「よし行こう」
手にはプレゼント。自分の誕生日は洗濯層の掃除。自己犠牲精神溢れる女が言った。
プロジェクトメンバー3人(もはやこれはプロジェクトと言っていいだろう)は、冷たい風の吹く夜の街の中を抜け、目的地を目指した。
目的のマンションに到着したとき、火付け役の男が言った。
「部屋番号がわからない」
私たちー当然仕掛け人を除く二人ーは、男を罵倒した。そして、いくつかの口論を経て
「電話をかければいいじゃないか」
という当然の結論に達する。
まずは、言いだしっぺの男。
ー繋がらない
次に、女。
ー繋がらない
最後に、私。
ー発信音すら鳴らず留守番電話サービスへ。
これから導き出される結論。
電話の電源を、切られた・・・?
3人は、マンションの前で、ひとしきり途方にくれた後、男の家に戻った。
3人は、口汚い言葉で罵りあったり、計画の不備について嘆いたりすることはなかった。
ただ、静かに座っていた。無言というひびが、3人の間に横たわっていた。
プロジェクトをはじめた当初の、希望や喜びや楽しさや・・・・そういった何かよさげなものは、全てどこかに消え去っていた。
そのとき、女の携帯電話が鳴った。
ーごめん。お風呂に入ってたら、携帯の電源切れてた。
路行く人を押しのけ、跳ねとばし、3人は黒い風のように走った。
酒屋で酒宴の、その宴席のまっただ中を駈け抜け、酒宴の人たちを仰天させ、犬を蹴(け)とばし、小川を飛び越え、少しずつ上っていく月の、十倍も早く走った。
一団のサラリーマンと颯っとすれちがった瞬間、不吉な会話を小耳にはさんだ。
「いまごろは、あの女も、夢の中にいるよ。」
ああ、その女、その女のために私は、私たちは、いまこんなに走っているのだ。
その女を寝かせてはならない。
急げ。
おくれてはならぬ。
愛と誠の力を、いまこそ知らせてやるがよい。
風態なんかは、どうでもいい。
私たちの心は、いまや、ほとんど全裸体であった。
呼吸も出来ず、二度、三度、鼻から水が噴き出た。
見える。はるか向うに小さく、彼女のマンションが見える。
マンションは、月光を受けてきらきら光っている。
マンションの下で電話をかける。
ーつながった。
「私だ! あなたの同期の、私だ。あなたを祝う人々は、ここにいる!」と、かすれた声で精一ぱいに叫びながら、ついにマンションの上に昇り、友の家の玄関に齧(かじ)りついた。周辺住民は、どよめいた。あの不審者たちは誰かしら、と口々にわめいた。
同期の家の玄関は、開かれたのである。
私たちは眼に涙を浮べて言った。
「Happy Birthday to You. Happy Birthday to You...」
彼女は、すべてを察した様子で首肯(うなず)き、フロア一ぱいに鳴り響くほど音高く私たちの右頬を殴った。殴ってから優しく微笑(ほほえ)み、
「私を殴れ。同じくらい音高く私の頬を殴れ。私はこの三日の間、たった一度だけ、ちらと君たちを疑った。生れて、はじめて君たちを疑った。君たちが私を殴ってくれなければ、私は君たちと抱擁できない。」
私たちは腕に唸(うな)りをつけて誕生日の彼女の頬を殴った。
「ありがとう、友よ。」四人同時に言い、ひしと抱き合い、それから嬉し泣きにおいおい声を放って泣いた。
どっと近隣住民の間に、歓声が起った。
「Happy Birthday! Happy Birthday!」
私たちは、プレゼントを差し出したあと、ドアをそっと閉めようとした。彼女は、まごついた。佳き友は、気をきかせて教えてやった。
「君は、パジャマ姿じゃないか。早く着がえるがいい。私たちは、あなたのパジャマ姿を、皆に見られるのが、たまらなく口惜しいのだ。」
つい、2時間前に誕生日を迎えた彼女は、ひどく赤面した。
夜のテンションでブログを書き出したら、自分の文才の無さと根気の無さに絶望して、途中からパロディになりました。
まぁ、いいや。
きっと、大して違わないからいいよ。もう。ほんと。
※この文章はきっとフィクションです。実在の人物、団体、事件などにはいっさい関係ないんじゃないかな。
by judas121
| 2009-02-01 02:41
| 呟き
S | M | T | W | T | F | S |
1 | 2 | |||||
3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 |
10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 |
17 | 18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 |
24 | 25 | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 |
31 |
プロフィール
得意な科目は『理科』・『社会』の自称社会派理系。
理系大学院を出たにも関わらず、何を血迷ったか文系職に。
血反吐を吐きながら、成長を続けている(と信じている)。
理系大学院を出たにも関わらず、何を血迷ったか文系職に。
血反吐を吐きながら、成長を続けている(と信じている)。
以前の記事
2012年 01月
2011年 11月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 12月
2009年 11月
2009年 10月
2009年 09月
2009年 08月
2009年 07月
2009年 06月
2009年 05月
2009年 04月
2009年 03月
2009年 02月
2009年 01月
2008年 12月
2008年 11月
2008年 10月
2008年 09月
2008年 08月
2008年 07月
2008年 06月
2008年 05月
2008年 04月
2008年 03月
2008年 02月
2008年 01月
2007年 12月
2007年 11月
2007年 10月
2007年 09月
2007年 08月
2007年 07月
2007年 06月
2007年 05月
2007年 04月
2007年 03月
2007年 02月
2007年 01月
2006年 12月
2006年 11月
2006年 10月
2006年 09月
2006年 08月
2006年 07月
2006年 06月
2006年 05月
2006年 04月
2006年 03月
2006年 02月
2006年 01月
2005年 12月
2005年 11月
2005年 10月
2005年 09月
2005年 08月
2005年 07月
2005年 06月
2005年 05月
2005年 04月
2005年 03月
2005年 02月
2005年 01月
2004年 12月
2004年 11月
2004年 10月
2004年 09月
2011年 11月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 12月
2009年 11月
2009年 10月
2009年 09月
2009年 08月
2009年 07月
2009年 06月
2009年 05月
2009年 04月
2009年 03月
2009年 02月
2009年 01月
2008年 12月
2008年 11月
2008年 10月
2008年 09月
2008年 08月
2008年 07月
2008年 06月
2008年 05月
2008年 04月
2008年 03月
2008年 02月
2008年 01月
2007年 12月
2007年 11月
2007年 10月
2007年 09月
2007年 08月
2007年 07月
2007年 06月
2007年 05月
2007年 04月
2007年 03月
2007年 02月
2007年 01月
2006年 12月
2006年 11月
2006年 10月
2006年 09月
2006年 08月
2006年 07月
2006年 06月
2006年 05月
2006年 04月
2006年 03月
2006年 02月
2006年 01月
2005年 12月
2005年 11月
2005年 10月
2005年 09月
2005年 08月
2005年 07月
2005年 06月
2005年 05月
2005年 04月
2005年 03月
2005年 02月
2005年 01月
2004年 12月
2004年 11月
2004年 10月
2004年 09月
ブログパーツ
最新のトラックバック
ファン
ブログジャンル
画像一覧
イラスト:まるめな